WEBライターまっちゃんの日記

大阪を中心としたラーメンの食べ歩き記事です

  【ラーメンエッセイ】「大阪 神座千日前店」ラーメン物語

 

 

【ラーメンエッセイ】「大阪 神座千日前店」ラーメン物語

 

 

「ラーメンの数だけ人は恋をする。」

 

そんなことはまず無いだろう。でもねぇ、ふりだけでも良いから、ほんの少しだけでもラーメンに恋をしてみようではないか。


そう考えると、あることが浮かぶかもしれないから、、、

 

「あなたがこれまで啜ってきたのは、もしかしたら麺だけでなく、古く切ない思い出も一緒だったかもしれない」と。

 

ラーメンのスープと共に苦い過去の思い出も飲み干しリセットするのもいいだろう。


そんな俺たちに今日もラーメンはささやく「すすれ、ズズッとすすってしまえ」と。
嫌な思い出と感情は、麺とスープと一緒にすすって忘れてしまえ、、よと。


そして今日もおれは行く、ラーメンと共に新しい出会いを求め。

 

大阪「神座 千日前店」に出会う

大阪はラーメンのメッカではない。
でも、ミナミに位置する千日前商店街には「たこ焼き屋」「串カツ屋」と並び、「ラーメン屋」もズラーっと連なっている。
なんと、ここの通りだけでもラーメン店が7店舗もあるほどラーメン店の密度が高い。
今日はどうした縁からか、その中から、「神座 千日前店」にお邪魔することになった。

 

ちょうどお昼時でお腹もすいていたので早くラーメンを食べたかったが、あいにくどこも人でいっぱい。

外は気温も高く汗ばむ日差しがきつかったが、商店街の中はそうでもなかった。

 

中国や韓国からの観光客があふれ、外国語が景気よく飛び交うこの通りには、昔のような庶民的な雰囲気は薄れ、すっかり立派な観光地と姿を変えていた。

 

人込みをうろうろしていたら「ラーメンどうですかー!今ならすぐにご案内できます~!」という若い女性の店員さんのやや恥ずかし気で控えめな声が耳に刺さった。

 

振り向いたら目の前にラーメン屋があった。


見た目はまだ新しく、ガラス戸の奥に見える店内には、特にひとでごった返している様子ではなかった。

 

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店の名は「神座(かむくら)千日前店」。神座は、はじめは読めなかった。

 

「神座 千日前店」の真向かいには豚骨ラーメンで有名な「一蘭」があり、ちょうど俺が、一蘭に入ろうとしたけど人でいっぱいであきらめていた時だった。

 

せっかく、「神座」の従業員さんから声をかけてもらったので、お店の外にある券売機をみながら、ラーメンの写真をみると「なんだか白菜やら野菜がいっぱいのっている。。。」

うーん、以前この手のラーメンを食べて苦い経験があったので躊躇したけど、ここで引くのは店員さんに失礼と思いあきらめ、卵ともやしがトッピングの「煮卵もやしラーメン」を選び店内へ入った。

 

 

大阪 神座 千日前店の「煮卵もやしラーメン」を選ぶ

神座 千日前店の「おいしいラーメン」というのが一番安く、600円台だったろうか


素直にこのラーメンにすればいいものを、見た目が名前のように美味しく見えなかったので、綺麗にカットされ、食欲をそそるようなトロッと柔らかい黄身の煮卵がトッピングされた「煮卵もやしラーメン」を選んだわけだ。値段は850円ほどだったと思う。

 

券売機にはいろんなラーメンがあり、自分が好きなチャーシュー麺1000円を超えていたのでやめた。


値段だけでなく、神座 千日前店の様な初めての店でチャーシュー麺を選択するのはある意味自殺行為に近い。
もし、チャーシューがまずかったら、ただ単に食べるのが苦痛になるだけだからだ。

 

つまり正直なんの期待もなく店内へ行きカウンターへ座った。

 

 

 カウンター越しに見える緊張感あふれる「神座 千日前店」の厨房

カウンターからは、厨房が丸見えで、白衣を着た男女合わせ7人近い料理人たちがオーダーに追われながらせっせと調理をしていた。

 

厨房には、中華料理用の大きなガスコンロが2台あり中華鍋を上下に振るい、「カランカラン」とリズムよく料理人がラーメンに入れる野菜を炒めていた。

 

コンロの横には大なべで麺が茹でられていたが、この店では「平ざる」ではなく縦長の「テボ」が使われていた。

 

「テボ」のほうが、麺の量とかたさも正確にはなるが、個人的には平ざるで大量の麺を手際よく水を切り、どんぶりに移していく光景の方が職人らしく好きだが、この店の人は、職人というよりも「料理人」。

 

「テボでも悪くない」そんな気がした。

 

麺のお湯を切る時も大げさなパフォーマンスはなく、目立たないように静かに切っていた。

 

料理人たちは若いいまどきのバイトスタッフのようではなく、みなそれぞれある程度経験を積んだ料理人たちのように見えた。

 

料理長らしい中年の男からスタッフへ細かい指導がちょくちょく入り、「おいおい客の前であれこれ指導すんなよ」って思ったが、丸見えの厨房だから仕方がない。下手な料理を客に出すわけにはいかないのだから。

 

いままで、いろんなラーメン店におとずれたが、こんな雰囲気の店に入るのは初めて。
この店は普通のラーメン屋ではなく、中華料理店のような装いを神座は醸し出していた。

 

こうなると、神座が作るラーメンへの期待度はガラッとかわり、
「どんな美味いラーメンが食べられるのか?」っと期待を胸に待つことにした。

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ラーメンを待つ間、テーブルの上の調味料を見ると、餃子に使うタレと四角いステンレスのケースに入った刻んだニラしかなかった。
他の店でよく見かける、すりおろしたニンニクや紅ショウガ、胡椒すらおいてない。。。

 

「一体神座ではどんなラーメンを喰わせるつもりなのか。」それまでの期待度が再び一転してまた不安に変わった。


「胡椒がおいていないラーメン屋とは。。。ラーメンには、あえて胡椒を振らなくていいくらいパンチがきいているのか?そんなに粋なラーメンなのか神座は。。。」

 

どうでもいい疑問が頭を横切った。

 

しばらくして、お待ちかねのラーメンがはこばれてきた。

 

 

神座 千日前店の「煮卵もやしラーメン」の味は!

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そのラーメンを見た瞬間

 

むむむ、、、

 

そのラーメンにどこか違和感があった。


「メニューの写真と何かが違う」


なにが違うのかラーメンを良く見てみると、あることに気づいた。

 

「煮卵がカットされていない。。。」

 

写真では煮卵は綺麗に真っ二つにカットされ、柔らかそうで艶やかな黄身がどんぶりに盛られていたが、出された物はカットされていなかった。

 

最近はこのように、煮卵をそのまま一個トッピングするところも出てきているが、正直食べにくい。

 

しかし、なんというかこの殺風景なラーメンからいつもの様な食欲をそそるものが無かった。


また、何と表現すればいいのかさえ分からなかった。

 

とんこつでも、味噌でも、魚介でも、今はやりの辛口系のラーメンでもない。


「中華そば」この地味な言葉がなんとなくしっくりくる感じがした。

 

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とりあえず、まずはスープからスタート。これが俺のやり方。
スープを一口啜ればこのラーメンの美味しさがわかるのだ。

 

レンゲで神座がこだわるスープをすくってみると、そのスープは、赤色のレンゲの色が映し出されるほど澄んだ透明感があった。

 

スープを啜ってみると驚いた。。。

 

「うっ、美味い!」思わず心の中で叫んでしまった。

 

その透明、いや金色でキラキラしたスープには見た目からは絶対に想像ができない、あらゆる食材の旨味が凝縮されていた。

 

「不思議な味だ」

 

だいたい、ラーメンのスープは味や香りが濃いものが多い。

塩気が強かったり、極端に味噌や豚骨の香りが強かったりと。
正直「上品」という言葉はラーメンには似合わない。

 

中華料理店で出されるラーメンは鶏ガラベースで醤油風味、全体的にあっさりして何か物足りなさを感じることが多い。

 

でもこの「神座」のラーメンは違った。

 

見た目は後者の中華料理店のラーメンのようだが、とにかく味が全く違った。

 

思わず嬉しくなり、口中に唾液があふれてくるのがわかった。

 

次に麺をつかんだ。

 

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やや黄色く太目の麺は「中華麺」。
一口すすると、つるっとして、やや芯がある固さを感じられる麺だった。

 

のど越しが良く、食べごたえも十分にある見事な麺に、胸の奥でなにかが踊った。

 

自分の意志とは無関係なところで、このラーメンに対する愛情が膨れ上がっていくのをじわりじわりと感じ始めてきた。

ついさっきまで、なんの魅力も感じることができなかったこのラーメンに。

 

「魔法にかかった」この言葉が、この時の自分の心境にピッタリだろう。

そう、おれは、このラーメンの魔法にかかっていたのだった。

 

スープに浮かんだ白菜やもやしからは、なんの食への欲求は生まれない。
でも、口にすると全く違ってくる。


不思議とこれらの野菜たちがスープとマッチして、見た目からでは想像がつかない美味しさを生み出していた。

 

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好物のチャーシューをつまんでみた。

薄くスライスされた、俺好みのチャーシューだった。

 

味が濃く、分厚くて柔らかすぎるチャーシューは俺は嫌いだ。


このタイプのチャーシューは肉の味ではなく、味付けした調味料の味が強すぎる。
柔らかくとろけるような食感の肉には、肉本来のたくましさを感じることもできない。

 

「しっかりとした歯ごたえ」「噛むごとにあふれ出す肉の旨味」この2つが感じられないチャーシューにはなんの魅力も感じられない。

 

でも、「神座 千日前店」のチャーシューは違った。

 

薄く、なんの特徴もないチャーシューにはしっかりとした食感があり、肉の旨味も十分にあった。

豚肉本来の姿で、このラーメンの味わいにマッチしていた。

 

こんなに上品な味わいのラーメンは初めてだ!」素直にそう感じた。

 

ラーメンという料理は不思議なもので、基本的には麺とスープが主体の料理である。でもこの単純な組み合わせから様々なタイプのラーメンが生み出されている。


庶民的なものもあれば、上品に仕上げられたものやら、まるでクラシック音楽の「バリエーション」変奏曲のように。

 

作曲家が、考え付いたテーマを音楽に広げて組み立てていくように、ラーメンを作る料理人も同じようなプロセスを歩んでいるのかもしれない。

 

たった一杯の「神座 千日前店」のラーメンをすすりながら、想像を膨らませていた。

だが自体は急変した。

 

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ここまで完成度が高い「神座」のラーメンに疑問を感じる瞬間が訪れた。

 

「煮卵」である。

 

カットされていな煮卵の食べかたに戸惑いを感じた。

 

たかが、煮卵だが、食べ方次第ではラーメンの味わいも変わってくる。

 

卵の黄身には水分と油脂を混ぜ合わせることができる成分がある。

この働きにより、食べやすかったり、美味しく感じることもあるが、すでに完成されたスープに食べこぼれてしまった黄身を混ぜてしまうことは、スープを台無しにしてしまうことになる。

 

どうしていいわからない俺が取った行動は、

 

「とりあえずかぶりつく」ことだった。

 

「がぶり!」

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口の中に柔らかい黄身があふれ出し、舌に絡んでいるのを感じた。
舌先は黄身の味を逃さないように忙しく動いていた。

 

口の中は煮卵がいっぱいになっているので、とても麺が入るスペースは無かった。
でも煮卵を嚙みながら、「白ご飯を食べたい」と別の欲求が目を覚ましつつあった。

 

半分ほどかみ切った煮卵からは、あの半熟の黄身があらわに表れた。
生でもなく、固まってもいない黄金色でペースト状の黄身が、かろうじて白さを保った白身にやさしく包まれていた。

 

「黄身よ、俺の為にもそのままじっとしておいてくれ」

 

そう心の中で願いながら残りの煮卵をつまみ、口の中に葬った。。。


煮卵を味わいながら、「このまま煮卵だけを食べてしまうのはもったいない。」そう思い箸で麺を探した。

 

琥珀色のスープには白菜や豚バラ、もやしが悠々と浮かんでいた。


5分ほど前には何の魅力を感じなかった野菜たちには堂々たる存在感があった。

 

俺はつまめるだけの麺を口に入れ、煮卵と一緒に噛みながら、二つの素材が奏でるハーモニーを楽しんだ。

 

そのハーモニーはやがてワルツのリズムにあわせ、華麗に舞い踊った。

やがて煮卵は口の中から消えてしまい、二人の舞が終わりステージは静かに幕を下ろした。

 

どんぶりの中には、パートナーを待つ白菜、豚バラ、もやしたちが残っていた。
チャーシューと煮卵が逝ってしまった以上、これ以上特別な味わいに出会うことはない。そう思い、どんぶりに刻まれたピリ辛のニラを投入した。

 

 

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神座 千日前店の「煮卵もやしラーメン」を完食

彼らには悪いが新しいメンバーが必要だった。

きっとこのニラが新しい味わいを作ってくれると思ったが、ちょっと遅すぎたようだった。


もう、どんぶりには麺は残っていなかった。。。。

 

残されたスープと、具材に対し申し訳ない気分でいっぱいだった。

「俺はまだまだ未熟」そう痛感した。

 

俺は、麺がなくなったどんぶりからつまめるだけ摘まんで口に入れてみた。


最後に残ったのは刻まれた大量のニラ、「ニラは麺と一緒に喰らうべし」と思った。

 

どんぶりを抱え残った具材とスープを飲み干した。

 

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「完食」

 

なかなかボリュームがあるラーメンだった。食後に道頓堀で美味いたこ焼きでも食うつもりだったが、とてもそんなスペースは無かった。

 

それぐらい、見た目と違うボリュームがあるラーメンだった。

 

九州男児で、ラーメンといえば豚骨ラーメンがあたりまえの俺。インスタントの味噌やシーフードや塩ラーメンも嫌いではないが、お店では豚骨以外はあまり選ばない。

 

いや、豚骨以外のラーメンを食べるときもあるが、さほど記憶に残っていないだけかもしれない。

 

そんな俺にも「神座」千日前店のラーメンは、インパクトがあるラーメンだった。

 

ラーメン職人のラーメンではなく、料理人がいろんな料理のエッセンスを取り入れて作ったラーメンが「神座」のラーメンと思った。

 

きっと俺と同じように感じる人は少ないだろうが、それでもいい。

 

これでまた、俺はラーメンに新しい恋をしたのだから。